昆布の概念を覆すナナクラ昆布の挑戦。もらってうれしい、おしゃれな昆布ができるまで。

text&Photo/長谷川みちる(Editor’s office Bluebird)

Ten to Tenのカフェ&バーのお料理にも活用されている日高みついし昆布。この昆布を製造・販売している“ナナクラ昆布”の商品は、北海道の新しいお土産として人気をよんでいます。これまでにない新しい昆布のカタチをつくったナナクラ昆布代表の木村真依子さんに、昆布や地域へのせた想いを伺いました。

 

漁師の家に生まれたことは、チャンスだ

「昆布で起業したいんです」

キリリとスーツを着こなし、同年代の女の子たちとはひと味違った自己紹介。
甘くてかわいらしい女の子というよりは、クールに見えて、でも話すと案外親しみやすい。
10年前、まだ新社会人だった彼女に出会ったときの印象は、
昆布というワードがスパイスとなって、今でも強く記憶に残っています。

<ナナクラ昆布Instagramより>

木村真依子さん。北海道新ひだか町・三石(みついし)郡の漁師の家庭に生まれ、現在、札幌市を拠点として日高昆布の流通・販売、普及活動を行う若手起業家です。
木村さんが運営する「ナナクラ昆布」は2015年にスタートし、2018年4月に札幌市中央区に実店舗をオープンしました(お店と商品についてはこちら)。

木村さんが起業を志したのは、大学生の頃。2代目の漁師である祖父の「自分の体が動かなくなったら、昆布の漁をやめる」という一言に、心が揺さぶられました。

「漁師業を継ぐことができるのは直系の男子に限られる。三石には、そのような風習や伝統が色濃く残っています。父親は漁師とは違う道を選び、私は3姉妹だったので、祖父は自分の代で昆布漁を終えるつもりでいたんでしょうね。
それってなんとなく、もったいないことだなぁと。田舎の、三石という町の漁師の家に生まれたことは、誰にでも与えられるものじゃない。だから1回きりの人生で、このバックボーンを生かさない手はないんじゃないかと思っていました。女性の私にできることといえば昆布の販売に限られますが、逆に女性という立場が話題を呼ぶだろうし、ニーズもあるはずだと」

 

伝統と挑戦のはざまで

木村さんは大学卒業後、昆布の新商品を作ることを念頭に、さまざまデザインを学ぶことができ、業種を問わず人脈を広げられそうな印刷会社に就職します。

女性で営業をバリバリとこなした経験を生かして、華々しく起業!!
……そんなイメージを持つ人が多いかもしれません。
しかし独立や現在の商品が出来上がるまでの道のりは、そうそう簡単なものではありませんでした。

仕事の合間をぬって昆布の普及活動を続ける反面、やりたいことと、やるべきこととの狭間で時だけが経ち、次第に起業に対しての意欲がしぼんだり、不安や焦りを感じる日々。そして、結婚、出産。
初めての子育てに悩み、ふさぎ込むことも多くなっていきました。

「私、なんで起業しようなんてバカなこと言ってたんだろう…とか、自分は誰にも必要とされないのかも…とか。色々落ち込むことがありました。
でも30歳までには起業したいと宣言していたので、なんとかここから立ち上がりたい。自分で立ち上がらなきゃ始まらない!と思い直して、まずは何でもいいから声を上げようと思いました。そうしたら、何かが変わっていくかもしれないから」

29歳。目標の期限を目の前に、木村さんはナナクラ昆布を立ち上げます。 屋号の“ナナクラ”は、初代(木村さんの曾祖父)が生業としていた販売業・卸業「木村七蔵商店(きむらしちぞうしょうてん)」から読み替えて名付けました。

そして、本格的に昆布の商品作りが始まります。

昆布を欲しいと思う人はどんな人だろう? そもそも、本当に欲しいと思うの?
じゃあ、自分が欲しいと思う商品を作ろう。でも、もらって嬉しい昆布って何?

疑問がグルグルと頭をめぐる中、木村さんが出した答えは、昆布に見えない斬新さ。「もらってうれしい、おしゃれな昆布」です。これまでの常識を覆し、一般的に販売されている大入り袋ではなく、使い勝手がよい少量タイプの、キッチンに飾ってもサマになるようなパッケージで販売することを思いつきます。

しかし、自分自身という壁を越えてなお、大きな試練となったのは家族と地元の存在でした。

「まずは自分の求める昆布の規格を作る(カットする)ことを、祖父に説得するところから難航しましたね。昆布漁師としては質が良い昆布を“短くカットし、刻む”という行為に抵抗があるそうなんです。もう一つ、昆布製品には見慣れない言わばおしゃれなパッケージにするということ。これらに対して『これをやる意味は、どこにあるのか』と、なかなか理解を得ることができませんでした。
小さく商売しているところは小さく、大きく商売しているところは大きく、という暗黙のルールみたいなものがあったんでしょう。曾祖父こそ手広く商売していましたが、二代目の祖父はどんどん商売を縮小してしまって。メディアに取り上げられるようになると、『お願いだから目立たないでほしい』と家族にたしなめられたこともあります(苦笑)」

実家や地元に貢献したいと思って頑張っても、理解を得ることができない苦しさ。
私のやっていることは独りよがりなのだろうか。迷惑をかけることなんだろうか…。
そんな錘(おもり)のような気持ちを抱えながら、木村さんは船を漕いでいきました。

おしゃれなひとはだしをとる

それからも「昆布の概念を覆す」という思いを胸に、PR活動に取り組んだ木村さん。ナナクラ昆布に「おしゃれなひとはだしをとる」というキャッチコピーをつけ、オシャレな服を着て料理教室を開いたり、百貨店やマルシェなどの店頭に立ちます。そしてSNSやホームページでは、昆布のレシピを公開。雑誌やWEBマガジン、テレビにも取り上げられることが増えるようになっていきました。

昆布をもっとおしゃれにカジュアルに♡贈り物にも嬉しい「ナナクラ昆布」をご存知ですか? | キナリノ

 


「昆布を使ったり出汁を取るのって、自分たちより年配のイメージがありませんか?これから、その世代の人たちがいなくなったら、昆布を食べる人がどんどん少なくなってしまう。ですから、20〜30代の人たちにも昆布を普段の食卓に活用してもらいたい。昆布の文化を根付かせたかったんです」

少しずつ、少しずつ。行動し、カタチにして見せる。
そうやって昆布と向き合っていった結果、家族や地元の人たちの気持ちがほぐれていくのを実感できるようになったと、木村さんは言います。

 

昆布、そしてふるさとが、これからも輝くように

「三石の海は波が高くて養殖には向いていないので、昆布は全て天然もの。ですが、生態系の変化で、良質な昆布のとれる量が少なくなっています。もしかすると、昆布漁はこれからもっと少なくなるかもしれません。
昆布漁は7〜8月のお盆前までがベストシーズン。天気が良くて、風と波が穏やかな条件が揃わないと出漁しないので、見ることができたら本当にラッキーです。漁は早朝に行うので、泊まりがけで足を運んでみてほしいですね。
三石には宿泊施設があまりないので、いつか地元にゲストハウスを作れたら面白いなぁって。そこから、三石の魅力を発信できたらいいですよね」

昆布が食卓に並び、出汁を取ることがライフスタイルの一つとなり、なおかつおしゃれであること。
そして、利尻昆布にも、羅臼昆布にもない日高昆布らしいおいしさ、それを育む海や地域の魅力を知ってもらうこと。
商品ができた現在も、木村さんの昆布の“引き出し”を探す毎日は続きます。

私たちが初めて出会ったあの新社会人の頃には、
彼女の胸の奥に、こんなに深く、温かい郷土愛が眠っていることに気付かずにいました。
文化、地域、家族―。しがらみも丸ごと飲み込んで立ち続けた彼女は、
10年前よりもずっと力強く、おだやかで、輝いて見えました。

※写真提供:ナナクラ昆布(漁や昆布の写真)


【ナナクラ昆布】
○所在地/北海道札幌市中央区南19条西14丁目2-23第6サイトウビル1F
○TEL/050-5328-1394
○HP/http://nanakura-kombu.com/
○営業時間/11:00~17:00
○休/月・日・祝
○駐車場:あり(1台)

【ナナクラ昆布取扱店】
■北海道くらし百貨店(ノルベサ)
■きたキッチン(新千歳空港)  他

LOCATION

WRITER

ハセガワ ミチル
酪農ライター/編集者

ITベンチャー、編プロ、農業系大学の編集・出版部を経てフリーランスに。一次産業(特に酪農)、町づくりのフィールドを中心に、これまで21都道府県(道内全域)を取材。北海道苫小牧市出身。

Editor’s office Bluebird
http://chiru-bluebird.info/